日記

ただの日記

桂馬君

自己承認、苦手な言葉だ。
どうも僕は昔から自分で自分を認めてあげるってことが苦手だ。若いころはどんなに多くの友達がいても心細さや不安があった。将来どうなるんだろう?と先行きが見えない不安を抱えながら多感な青春時期を過ごしていた。
恰好を付けて髪の毛を金髪に染めたことがある。注目はされて何だか気分は高揚するが満たされなさはずっとあった。ありのままで良いと心の底から思えるのはまだまだずっと先のことだった。
いや、大人(おっさん)になった今でもメンタルは大きく成長していないのかもしれない。だけど、「できるだけ人任せにしない。自分で考え自分で決断する」ということは大事にしていきたいと思っている。でないと他人に殺されかねないと思ったりもする。最近人生で辛い出来事が多すぎたので全然今回書きたいテーマと違う内容を書いてしまったかもしれない。話を戻します。
 
 
だいたい僕と仲良くなる子は行動力があったり、あまり他人の目が気にならない子と仲良くなりやすい。一方お互いに他人の目が気になったり、遠慮しがちなタイプだと一緒に食事をしていても「ここのお店でよかったかな?」とか「美味しいかな?」とか、他人の気持ちが気になって落ち着かなかったりする。
学生時代に友達だった桂馬君もあまり他人の目が気にならないイケメン男だ。男らしさもありながら押しつけがましい部分はなく性格も良い。兄弟がすべて女性ということから女心もわかっているのだろう、非常にもてた。そりゃモテるだろうなーと思う。髪の毛なんて少女漫画に出てくるサラサラヘヤーだし、なんだか気のせいか良い匂いもするし、何より顔が良い。きっとクラスの女子で桂馬君を誰もが一度は好きになったことがあるのではないだろうか。
 
 
そんな学生時代の暑い夏の日、最近できたコンビニにアイスを買いに行く。
家族の分も買ってくるように依頼されて安いアイスなどを混ぜながらたくさんアイスを買いこんだ。自動ドアを出るとコンビニ裏でうんこ座りをしているヤンキー女が3人いた。誰だろう?ここにたむろをしているのを初めてみた。
見かけない人達だなと関わらないようにしようと目を極力合わせないように通り過ぎようとすると、その中の身体の大きな女に「おぅ!夏野、夏野じゃん!何してぇんの!?」と声をかけられた。
え、誰だこの女・・・、こんなガタイが良い女知らないぞ、しかもブスだ。と一瞬思ったがすぐに思い出した。小学校の時にやたらに僕にちょっかいをかけてきたり、殴ってきたり、イジメてきた女だ。
悪役レスラーみたいな顔と身体をしている。恐かった。小学生ながらにこの女と喧嘩をしたら負ける、と気持ちが後ずさりしていたのを覚えている。
いつも殴ってくるのでできるだけ喧嘩したくない(負けたくない)僕は、「やるか!おうおうやるんか?」、とこちらは輪ゴムをピストルのようにセットして応戦していた。気の強いこの女も輪ゴムピストルだけは恐かったようで、すぐに恐れをなしてどっかに行っていたのを覚えている。
あー、あなたしばらく会わないうちにヤンキーになっちゃったのね。
 
 
「夏野何買ったん?」
「え・・・アイス」と余計なことをバカ正直言ったことを後悔しつつ冷や汗をかきながら返答する。
周りにも茶髪だの、髪の長い女だの、知らない女が二人いる。突然の出来事で緊張して顔をはっきりとは見られないけど、昔の同級生じゃないのは何となくわかる。おそらく別の地域の子達だろう。
「おおー!アイス!?ちょうだいよーアイスちょうだい」と、僕の下げていたコンビニ袋を勝手にまさぐり始める。
「・・え・・あ・・・ちょっと駄目・・・」
獣のように人の持っている袋をまさぐられ、そしたら周りの二人の女も「えーー!私も頂戴、私もー!」と、家族の分も含んでいるアイスを3つひったくられた。
「お・あ・・ちょちだめだって、駄目・・・」、と断る暇を与えない。
断っても若くて無知で浅はかなこのヤンキー女3人は気にもかけてくれない。
 
「夏野最近何してぇんの?元気してるん?」と身体の大きな悪役レスラーがアイスをなめ回しながら話しかけてくる。
「おおぅ、まあ・・・」
一人の別の見かけない女2号も話しかけてくる。
「ねえねぇ、桂馬君って知ってる?」
「ああ…知ってる」
 
「ええ~ん、そうなんだ!?桂馬君って超かっこいいよね!私らの学校でも人気だったよ。紹介してよ」
適当に「ははは」と相槌を打ちながら(てめーみてぇな女、桂馬君は相手しないわ)と心の中で痰を吐きかけた。自宅に帰宅後、家族分のアイスは何とか渡せてほっとしたけれど、自分の分は足りないという虚しさ。
それを家族に悟られたくないのですぐに自分の部屋へ行きベットに顔をうずめた。あーあーどうしてもっとはっきり断れないかな~はあぁ。
 
 
そんな知らない女からも好かれるイケメン桂馬君から夏のある日、電話がかかってきた。
「おーぅ、夏野、今何してるん?遊ばへん?」
「いやあ、別にいいけど何もすることないで?」
 
「バイク乗ってどっか行こうや、山とかいく?」
「別にいいけど、桂馬君は他の子と遊んだほうがいいんじゃない?」と、どうも自分と遊んでもそんなに楽しくないよ、ということをアピールする。遊びたいけど期待を満足させられる自信はないんだ、とメンタルヘタレ男。
 
「ははは、何いってるんだよ!俺はお前と遊びたいんやって」
はふーん、言うこともいちいち男前やん。僕もこんな風に自分のやりたいこと、好きなことを恥ずかしがらずに言葉にできる男になりたいもんだと思った。他人から承認してもらって自己承認度がちょっとアップした。
 
 
月日は流れ、そんなイケメン男、桂馬君とは月に1回時々遊ぶかな?というぐらいの頻度になっていた。
別に仲が悪くなったからとかそういう事ではなくて、前は頻繁に毎日のように遊んでいたけど最近はそれぞれ別のグループで遊んでるなという認識。
そんな中、自宅でだらだらと無為な時間を過ごしていると夕方電話が鳴った。
どうやら桂馬君と当時付き合っていた彼女が台湾だか韓国だかに海外旅行に行ってたそうだ。帰ってきたので、おみやげがあると。桂馬君と仲の良かったメンバーが呼ばれてみんなそれぞれに、おみやげを渡していく集まりが開かれているようだった。僕も呼ばれた。
 
 
ふふふ、確かになー最近そんなに遊んでいなかったけど、仲良かったしな!
桂馬君の彼女には、桂馬君と僕が付き合っているの?と疑われるぐらい一緒にいた特別な関係だしな!
夜中一緒にいつかは来るであろう有事のために、セックスの体位練習も一緒にしたしな!
 
 
おみやげ会に行ってみると、桂馬君と仲良い子だったり、それなりに仲の良い子だったりが集まっている。
情報を集めてみると、どうやらとても仲の良い子にはジッポがプレゼントされるようだ。なるほどなるほど、親友並みに仲の良い子はジッポで特別枠、普通の友達にはそれ以外のプレゼント・一般枠ってわけね。
わかる!お金かかるもんなーそんな誰にも彼にも同じものはあげられんもんな。僕だってそうする。差別化か、だけど緊張するな・・・僕はどっちなんだろう・・・ジッポなの?ジッポだよね?ジッポじゃないの?
脇汗がしたたってくる。
しばらくすると桂馬君が僕に気づき、声をかけてきた。
「おーー夏野~久しぶり!元気してた?」と甘い声で声をかけてくる。「や・やぁ」とかなんとかいいながら緊張していると「韓国行ってきたからおみやげ!これやるわ」と言って、韓国語の説明文があるマルボロメンソールをひと箱渡された。
 
 
え?ええええ!・・・・・・ただのタバコ?タバコって消耗品じゃん。
いや、そんなことじゃなくって僕らの関係、いや桂馬君の中での僕の立ち位置ってそこなの?とショックだった。おくびにも出さなかったけど傷ついた。
受け身であまり自分の本音を言わないっていうことは、それだけ友達としての価値も低くなっちゃうのかなとも思った。
てか、マルボロ吸わんし!メンソールもっと吸わんし!!
はにかみながら「ありがとう」と言った。
 
 
おみやげ会で遊んでいる間、ジーパンのポケットに入れていたタバコが太ももにあたって窮屈だったので自宅に一瞬戻り、自転車の前カゴの中に置いてきた。
夜に帰って前カゴの中をみると何も無く、桂馬君からもらった韓国語が書かれたタバコは誰かにパクられていた。